これから4回にわたり、保険外訪問看護の実際の利用例をご紹介します。保険外訪問看護がどんな場面で利用できるのか、具体的にイメージしやすくなるよう保険外訪問看護師として実際に関わった事例をもとに、お伝えしていきます。第1回目は、“一人で外出が難しいご家族の病院受診に付き添いたいけど、介護を担うご家族が仕事の都合などで同行できない”そんな場面での保険外訪問看護の活用例です。
この記事の目次
1.なぜ今「第3者の受診の付き添い」が必要とされているのか?
高齢者の多くは通院しています。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、65歳以上の人の約7割(69.6%)が、何らかの病気や怪我で通院されています1)。さらに移動に杖・車椅子・シルバーカーなどを利用している方は約2割にのぼります2)。移動に不自由がない場合でも、認知機能の低下があると診察内容を正確に理解することは難しいでしょう。そういった状況では、誰かが受診に付き添ってサポートする必要があります。
通常、付き添いはご家族が担うことが多いですが、配偶者も同様に高齢である場合は、付き添いが困難な場合があります。子ども世代は仕事をしていることが多く、平日の受診に合わせて有給を取ったり、勤務調整をするのは簡単ではありません。私自身も母が癌と診断されてから、月1回、時には2週間ごとの受診が必要となり、そのたびに職場に事情を説明して勤務を調整するのは本当に大変でした。
2.看護師が通院に同行する安心サポート
お一人で病院受診が難しい、でも家族も付き添えない。そんな時に、看護師による受診同行サービスを選択肢の1つに考えてもらいたいと思います。
介護保険を利用されていればヘルパーやケアマネージャーが同行することも可能ですが、病院受診には時間がかかることも多く、一人の利用者に数時間付き添うのは現実的に難しい場合があります。また診察に同席して医師の説明を聞いたり、ご本人やご家族に代わって内容を伝えるといった“医療的な支援”は認められていません3)。
その点、看護師の同行であれば、医師の説明を一緒に聞き、必要な情報をご家族に共有したり、受診中の体調管理を行うことも可能です。
以下が看護師による受診同行サービスの一般的な内容です。
- ご自宅へ訪問し、外出可能な体調かどうかを確認
- ご家族や他の医療職(訪問看護師など)から医師へ伝えるべきことがあるか確認
- 必要に応じて配車を手配(介護タクシーを含む)
- 病院までの移動中の体調を見守りながら同行
- 病院内では診察室までの移動をサポート
- 診察時に付き添い、必要に応じて説明を補足・内容を共有
- 次回の受診予約のサポート
- 会計手続きの補助
- 処方薬の受け取り支援
- ご自宅まで安全に同行。帰宅後の体調管理と必要に応じたケア
- 訪問看護など他職種への報告事項がある場合は情報共有
これらが保険外訪問看護で提供する受診同行サービスの主な内容となります。
3.【事例紹介】仕事で付き添えない家族の代わりに同行したケース
イメージしやすいように、実際に私が受診同行した状況をお伝えします。
【ご本人】80歳代、女性、呼吸器系の持病あり(在宅酸素療養中)、難聴のため耳元で声を大きくして話をすると会話が可能。
【生活環境】息子夫婦が同じマンションに住んでいる、
【移動】部屋の中は壁など支えを持って歩行、外出時は杖を使用、携帯用酸素ボンベが必要。ご自身の身の回りのこと(入浴、買い物など)はゆっくりと行える。
【困りごと】息子夫婦は仕事で日中不在。1ヶ月に2〜3箇所の病院受診がある。今までは息子夫婦が交代で付き添いしていたが、仕事の調整が困難となってきた
【利用サービス】訪問看護サービスを体調管理と内服管理で利用中。
※登場する人物・状況は実際の事例をもとに構成していますが、特定を避けるために一部内容を変更しています。
4.看護師が行った具体的な支援内容
前述のご利用者に対して、私が保険外看護の受診同行サービスとして実施、支援した内容です。
【自宅訪問直後】体調管理と出発準備
・ご本人の体調を確認し、受診可能であることを確認
・保険者証、診察券、お薬手帳など必要物品の確認
・携帯用酸素ボンベの動作確認、酸素の残量チェック
・訪問看護師からの申し送り内容を、連携ノートで確認(医師への伝達事項)
【病院まで移動】
・ご家族が手配されたタクシーを利用
・タクシー乗車地点までの徒歩移動(約5分)を確認し、歩行状態・転倒リスクを観察
・移動中の呼吸器症状(息の苦しさ、息切れなど)の確認
【診察場面での支援】
・医師の診察内容の把握
・訪問看護師からの連携内容を医師へ口頭で伝達
・ご本人が診察時にご自身の体調を正確に伝えられているかを確認
【診察終了後】理解の確認と補足説明
・診察中ご本人は頷かれていたが、理解度を確認すると、難聴でほとんど聞こえていなかったことが判明
・診察内容をあらためて伝達し、ご本人の理解を確認
【受診後の支援】薬局対応・会計サポート・帰宅フォロー
・処方箋を院内薬局へ提出し、医師からの指示内容を薬剤師に補足共有
・自動精算機での操作をサポート
・タクシーの手配支援(帰宅は診察終了時間が読めないため私が手配)
・帰宅後、呼吸器状態を中心に体調管理
・医師の診断内容を訪問看護師へ連携ノートで共有
・ご家族様への報告記録を記載
このような流れで行いました。看護師として特に以下のことを注意しました。
・初対面のご利用者であったため、事前情報のADL(歩行能力など)を鵜呑みにせず転倒リスクを慎重に確認
・在宅酸素療養中であったため、移動・会話時の呼吸器症状を継続的に確認
・医療機関の情報共有(訪問看護師→医師)の橋渡しを意識
・ご本人の理解度に合わせて、医師の説明を補足
このように、保険外看護の受診同行では、移動や受診中の安全管理と、医療情報の適切な橋渡しが重要な役割となります。また初対面のご利用者と関わることも多いため、相手の状況に合わせて円滑にコミュニケーションを図る力も欠かせません。ご本人・家族ともに「安心して受診できた」と感じていただけるような安全・丁寧な支援を心がけています。
5.まとめ
保険外看護の受診同行サービスは、ご本人の安全な受診のサポート、医療間の情報共有、そしてご家族の介護負担軽減を目的とした支援サービスです。
ご高齢の方は、なんらかの持病を抱えながら生活されており、ご家族が介護と仕事を両立することは、精神的にも肉体的にも大きな負担になります。とくに通院の度に勤務の調整が必要となれば、仕事の継続が難しくなるケースもあるでしょう。そんな時に保険外看護の受診同行サービスを選択肢の1つとしてご検討いただければと思います。
参照データ
1.通院の状況 国民生活基礎調査の概況 2022年(令和4年) 厚生労働省
2.高齢者の福祉用具使用状況 第49回 日本理学療法士学術大会 抄録集
3.「通院等乗降介助の取扱いについてのQ&A」 2021年(令和3年) 厚生労働省
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この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」