遺産の相続を巡り、相続人間で争いが起きてしまう「争族」という言葉、ご存知の方が多いでしょう。
仲の良いご家族であれば、「うちは家族の仲が良いから大丈夫だろう」と考えていらっしゃるかもしれません。
また、テレビドラマでやっているような多額の遺産を巡る争いと比べて、そこまで財産がないのであれば、「財産もないし大丈夫だろう」と考えていらっしゃるかもしれません。
しかし、実際はこのような場合でも争いが起きる可能性はあるのです。
今回は、この「争族」についてご紹介していきます。
この記事の目次
争族になるのは財産が多い家庭?
争族になるのは財産が多い家庭だと思っている方が多いと思いますが、令和1年度の司法統計によると、
相続発生後に裁判所で遺産争いになっているケースの約34%は遺産総額が1,000万円以下、
約43%は5,000万円以下
となっており、ケース全体の約77%は5,000万円以下の遺産総額という統計結果があります。
つまり、財産の多さが争いにつながるとは言い切れないのです。
遺留分とは?
次に、争族を考えるうえで重要な「遺留分」について紹介していきます。
遺留分とは、相続人に法律上保障された最低限度の相続分のことをいいます。
子や配偶者は、被相続人が亡くなったときに財産を相続する権利を持っていますが、遺言などにより、財産を誰か一人に全て相続させたり、相続人ではない第三者に遺贈してしまうこともあります。
その場合でも、自己に取り分があると主張すれば必ず一定の財産が取得できるという権利が遺留分です。
この遺留分の割合は
・配偶者や子が相続人の場合は2分の1×法定相続分
・直系尊属のみが相続人の場合は3分の1×法定相続分
になります。
遺留分が認められるのは配偶者・子と直系尊属に限られます。
被相続人の兄弟には遺留分がありませんので注意が必要です。
争族の事例
実際に争族になってしまった事例を紹介していきます。
Aさん(80歳)には、長男と長女の2人のお子様がいました。
奥様は既に亡くなっています。
主な財産は自宅(財産的価値が2,500万円程度)と預貯金(1,000万円程度)です。
家族構成 | 財産 |
---|
・Aさん(80歳) ・長男 ・長女 | ・自宅(財産的価値が2,500万円程度) ・預貯金(1,000万円程度) |
Aさんは生前、自宅に長男と同居しており、長男は長年Aさんの生活の面倒を見ていました。
しかし、Aさんの死後、遺産の分け方の話し合いをしたところ、長女は「平等に分け合いたいので、自宅を売ってしまったらどうか」と提案してきました。
今まで世話をしてきた長男はこれでは納得がいきませんでした。
売ると住んでいる家を出ていく必要がある上、面倒を見てきた分自分が多くもらってもいいのでは、と考えています。
そうなると、話し合いは進みません。
協議がととのわなければ、自宅の名義も変えられませんし、預貯金の解約もできません。
Aさんの財産に手を付けることができなくなってしまうのです。
子供たちはもちろん、Aさんもこのような結果は望んでいなかったはずですが、実際こういった事例が数多くあります。
争族が起きないために
では、争族が起きないためにはどのような対策をすれば良いのでしょうか。
ここでは、2つの対策をご紹介していきます。
遺言書の活用
まず1つが遺言書の活用です。
例えば、上記事例の場合、Aさんが、自宅を長男、預貯金を長女に相続させる内容で遺言を書いていたとします。
この場合、長女の遺留分は、
自宅2,500万円+預貯金1,000万円=3,500万円×2分の1×2分の1=875万円
となります。
遺言の内容で長女は預貯金1,000万円という遺留分以上の財産をもらうことになっているので、長男に対して遺留分侵害額の請求をすることができません。
遺言書の通りの内容で相続することになります。
保険の活用
2つ目が保険の活用です。
生命保険は相続税を計算する上でのみなし相続財産であり、民法上の相続財産ではありません。
したがって、遺言により遺留分を侵害された場合にも、侵害額を算定する時には原則として生命保険は対象外となります。
例えば、長男に対して、自宅(2,500万円)を相続させる旨の遺言を書いておきます。
併せて、長男を受取人とする生命保険(保険金1,000万円円)に入っておきます。
実際に相続が発生した場合、長女の遺留分は自宅の2,500万円のみを基準として算定されますので、
2,500万円×2分の1×2分の1=625万円
となります。
長男には、1,000万円の保険金がありますので、もし長女から遺留分を請求されてしまったとしても、この保険金から支払うことができるというわけです。
いかがでしたでしょうか。
争族は自分には関係ないと思っていても、自分の死後、争いになってしまう可能性も大いにあります。
自分が亡くなった後の家族のことを考えてみて少しでも不安に感じたのであれば、ぜひ専門家にご相談いただければと思います。
ご自身やご家族に万が一のことがあった時、一緒に故人の想い出を共有して懐かしめるはずの繋がりが、争族により話すどころか会うこともなくなるどという話も時折耳にします。
うちは揉めるほど財産もないしね、というお話もお伺いしますが、備えあれば憂いなし。
気軽には話にくいテーマではありますが、ご家族で話しておく必要があることなのは確かです。
心配の種になりそうなのはなにか?
どのような対策が選択肢としてあるのか?
それらはその方の状況によってさまざまです。
この記事を書いた人
髙橋 祥一朗(たかはし しょういちろう)
<プロフィール>
東京・札幌・大阪・広島・福岡・沖縄に拠点を展開するみつ葉グループの東京オフィスにおいて、相続事業部に所属。
これまで多数の相続・家族信託案件に携わってきた経験から、煩雑な相続手続きや複雑な家族信託の手続き関係を得意としています。
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