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介護状態にあるご両親は多くの方が介護を受けている状況を望まないと感じていると考えられます。
介護を受ける側がそのような感情を持っていると、介護をする側も否定的な感情を抱くことがあり、対応に困ることもあります。
ご両親と私達は親子であっても育ってきた環境や価値観が異なるため、介護中に価値観の違いで悩まれる方も多いと思います。
ご両親を理解し心に寄り沿った介護をするためにはどのような工夫が必要なのか紹介しています。
この記事の目次
親との価値観の違い
ご両親と私達はそれぞれが生きてきた時代や価値観が異なる事は当然です。
一般的にジェネレーションギャップということで意見の違いが生じます。
介護場面において、どのような違いが生まれるのでしょうか。
(1)介護の場所や方法に関わる意見の違い
自宅が施設か、または子供の家で行うか、訪問介護を利用するかなどそれぞれの意向で変わってきます。
(2)治療の選択に関わる意見の違い
手術を行うか薬だけで行うか、または治療をせずに自然に任せる選択をするかなどそれぞれの死生観でも変わってきます。
(3)お金の管理や対応に関する意見の違い
お金の管理を子供に任せられない、介護費用は親の貯蓄で行うべきだ、子供が払うべきだなどと意見の違いがあります。
信頼を失う可能性があるのでお金の管理は慎重に行うことが大切です。
(4)介護に対する責任の感じ方の違い
生きてきた時代背景が違う為、親世代は介護を行うのは子供の義務だと考え、子供はある程度の介護はするが専門家に任せる方がよいなどの考えの違いがあります。
これはほんの一例です。
(4)はどういった時代背景の違いなのか確認していきましょう。
介護の歴史
戦前戦後の高齢者介護は、高齢者福祉という概念が存在せず、一般的には「親の介護は子供が行う」という考え方が主流でした。
多くの家庭では主婦である女性が身体介護や生活の援助をしていました。
しかし、1960年代以降は高齢者福祉法、老人福祉法、老人保健法など高齢者に関する法律が制定され、高齢化社会への対応が進みました。
そして2000年に介護保険制度がスタートしました。
戦前戦後の時代には、介護が必要な高齢者に介護が出来る身内がいない、経済的に困窮しているなどの場合は行政が介護施設への入所を認める制度がありました。
これが行政処置制度と言われるものです。
現在の高齢者の方は戦前戦後の行政処置制度のイメージが強いため、施設入所に対して否定的な感情を持っている場合があります。
「あんなところが嫌だ、見捨てるの?」というような意見が聞かれます。
これは家族介護が当たり前だった時代に介護している様子を見てきたことや、自分も家族を介護してきた経験が影響していると考えます。
そして自分が施設に入る事になった際に家族から見捨てられたような感覚を抱かれるのだと予想します。
これは時代背景からくる価値観の違いが反映されているのではないでしょうか。
一方、私達の世代は経済の発展に伴い、女性の参加が必要とされる職種が増えた事で社会進出の機会が増えました。
そのことによって共働きの家庭が増えたこと、核家族化が進んだこと、2000年に介護保険サービスが制定され様々なサービスを利用できるようになり家族介護が当たり前であるという価値観は変化していきました。
現在では高齢者の介護において在宅介護だけでなく様々な選択肢ができるようになりました。
心に寄り添う介護
介護の歴史からご両親と私達の介護に対する価値観の違いがある事はお分かりいただけたと思います。
介護をするうえで一番大切なのはご両親のことをどれくらい理解しているか、または理解しようとしているかです。
ご両親は子供には弱い所を見せたくないのでついつい無理をしてしまいがちです。
もしかしたら、本心を隠して我慢しているかもしれません。
そして私達は幼少期のネガティブな出来事を思い出して、ご両親に素直に向き合う事が出来ない人もいるかもしれません。
どのようにして解決していくのか、ご両親との関わり方を3つの要点としてまとめました。
(1)思い込みを手放す
第一回目の記事でもお伝えしましたが、ご両親に対して素直な気持ちで向き合えない場合、それは過去の記憶が影響している可能性があります。
第一回目の記事
看護師がやさしく教える介護者メンタル① 介護中にストレスを感じる理由
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ここで大切なのはマイナスの記憶が多くあるのは人間の正常な反応であり、自分自身を責める必要はないという事です。
私達の記憶のプログラムは何万通りもあり、それに基づいて人生が形成されています。
介護をする際にネガティブな感情が湧きあがるのは、過去の記憶が影響している場合が多いのです。
したがって、ご両親に対して普段から会話するのを避け、嫌いだと感じる感情は自分自身の真意ではない可能性があります。
振り返ってみましょう。
本当にネガティブな記憶ばかりなのでしょうか。
ご両親との記憶でどんなことが思い出されますか。
(2)親の生き方を肯定する
今の高齢者の方々は自分達で人生を選択して歩んでこられた方達は少なく、日本経済の発展の為に尽くしてこられた方々です。
その方達に尊敬の気持ちを表すことが大切です。
介護を始めるとき・介護をしている最中はお世話をすることで精一杯だと思います。
しかし、ご両親は子供の為に生き方を見せてくれていると捉えたら親の見方も変わってきます。
ご両親は私達に自分の失敗や教訓を伝えてこられませんでしたか?
ご両親が他界して初めて気づくことも沢山あると思いますが、現在、そして過去にも私達に向けてご両親が伝えていたメッセージを思い出してください。
・礼儀正しくしなさい
・人に優しくしなさい
・コツコツ努力をしなさい
このメッセージは私達が生きていくうえで同じ過ちを繰り返さず、同じ苦労をしないように教えてくれたものです。
この教訓の裏にはご両親が生きてきた道のりがあり、そのおかげで私達は幸せに暮らせています。
私達からすればご両親の生き方は理解できないかもしれませんが、私達の時代にはない苦労が沢山あったことを理解し、ご両親の存在すべてを肯定することが大切です。
(3)感謝の気持ちを伝える
ある雑誌の企画で「親が死ぬ前にすべきだったこと」という内容でアンケートを取った結果が掲載されていました。
その結果は以下の通りです。
1位:感謝の気持ちを伝えておくべきだった 80.6%
2位:親子連れ立って外出や旅行に行くべきだった 60.2%
3位:親の人生の歩みについて聞いておくべきだった 26.8%
その他の結果は以下の通りです。
・重症時の治療方針を確認しておくべきだった 7.4%
・遺産相続に関する意思を確認すべきだった 6.0%
・資産や借金について細かく確認すべきだった 5.2%
・葬儀の仕方やお墓選びについて確認すべきだった 5.2%
・介護方針を確認しておくべきだった 4.8%
この結果から言えることは相続などの具体的な確認事項は少数であり、後悔しているのは主に「心」の部分でご両親の心に寄り添うことが出来なかったことを後悔されています。
感謝の気持ちを改めて表現するのは勇気が必要で恥ずかしいと感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、人間はいくつになっても誰かの役に立ちたい、必要とされたいと思っています。
思い切ってご両親に感謝の気持ちを伝えてみませんか?
まとめ
介護は突然始まる場合が多いです。
ご両親は周囲に心配や迷惑をかけているのではないか、つい最近まで自分の事は一人で出来たのにと否定的な感情を抱かれていると予想します。
家族でさえも、ご両親を完全に理解することは中々難しいことかもしれませんが、ご両親の本当の思いに気付こうとすることで、異なる一面を知り更に尊敬の念が生まれるかもしれません。
また、私達の命は有限であることを心に留め、後悔のない介護を行うことが大切です。
思い込みを手放し、ご両親の生き方や人生を肯定し感謝の気持ちを伝えていくことが、介護においてご両親と良好な関係を築き続けるポイントとなります。
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この記事を書いた人
郷堀有里夏
<プロフィール>
看護師経験30年。急性期病棟やICUを10年経験した後、施設看護や訪問看護、ケアマネジャーとして多くの介護を必要とする方々やそのご家族と関わる。
県外で勤務していた頃、母親が介護状態となり地元へ帰省する。
仕事と介護と自分の人生に悩んでいた頃、認知科学を学ぶ。
学びを通してわだかまりのあった親子間や家族間の葛藤を解消し、介護中に修復する事が出来た。そして、母親を施設から引き取り家族と共に在宅看取りを行うことが出来た。
自身の経験を通して、「健やかに自分らしく生きること」や「安心して介護や看取りが行える環境づくり」が重要だと感じ、心の介護専門家として講座やお話会を通じ情報を提供している。
<経歴、職歴>
(一社)日本ナースオーブ所属 Wellnessナース
看護師経験30年(訪問看護管理者、施設看護、介護支援専門員、救急センター、ICU)
保険外自費サポート ひかりハートケア登録ナース
<講座>
親にイライラしない介護コミュニケーション/ウェルネス講座
<その他の活動>
心から看る介護と認知症のお話会
後悔しない親の介護 / ブログ
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