女性が自分のからだに起きた女性特有の症状を周りの人に相談することは、ハードルが高くありませんか。また、どのような検査をされるのかわからなくて、病院に受診することも二の足を踏んでしまいがちです。この記事は、女性が婦人科系の症状を自分でチェックすることで、早めに専門家の診断や治療を受ける手助けとなればと考え、書き始めました。
第5回目は、女性の尿トラブル、主に尿失禁について取り上げていきます。
すっきりと気持ちよく排尿するためには、膀胱に尿を十分溜められること、膀胱からスムーズに尿を出し切れることが大切です。これらの条件が整わなくなると、尿トラブルにつながります。尿トラブルは男性にも起こりますが、女性は女性特有の尿道の短さや女性ホルモン、妊娠や出産の影響によって、尿トラブルが起こりやすい特徴があります。
自分自身の、女性の健康を守るために知識を深めてみませんか。
この記事の目次
1. 女性の尿トラブルの原因と症状
1) 尿路感染症
女性の尿道は3~5cmと短く、大腸菌などの細菌が尿道を通って膀胱に侵入することで、尿路感染症は起こります。トイレ後に後ろから前に拭く、下着の清潔が保てていないと、細菌が膀胱に侵入しやすくなります。その他、排尿を我慢し続けると、膀胱内で細菌が増えて感染を起こします。
症状は、頻尿、尿意はあるのに尿が出なくてすっきりしない、尿の色が濃いまたは白濁している、腰や下腹部が痛む、発熱がみられることが挙げられます。
2) 頻尿
尿の回数が多いという症状を頻尿といいます。一般的に朝起きてから寝るまでの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます。ただし、排尿回数は人によって様々です。自分自身で排尿回数が多いと感じる場合は頻尿といえます。
頻尿の原因は尿路感染症、過活動膀胱、残尿、水分の多量摂取、利尿剤の使用による尿量の増加などが挙げられます。
(1) 過活動膀胱
膀胱に尿が十分に溜まっていないのに、急に尿意を感じて我慢ができない尿意切迫感が必ず症状としてみられます。1回に出る尿量が少ないため、またすぐトイレに行きたくなります。
本来、膀胱は尿を溜め、ある程度の量が溜まったら体の外に出すようになっています。膀胱の大きさは約300~400mLで、膀胱に尿が150~200mL溜まると尿意を感じます。尿意を感じると膀胱の筋肉は収縮し、尿道括約筋がゆるみ、体の外に尿は出されます。
しかし、過活動膀胱は自分の意思とは関係なく勝手に膀胱が収縮してしまい、急に尿意を感じてしまいます。
(2) 残尿
残尿とは、排尿後も膀胱内に尿が残っている状態をいいます。糖尿病や腰部椎間板ヘルニア、子宮がんや直腸がんの手術などが原因で膀胱を収縮させる神経が障害され、尿をすっきりと排出できず、膀胱に尿が残ってしまいます。残尿があると膀胱内の尿を溜める容量が減るため、何度もトイレに行くようになります。
(3) 尿失禁(尿もれ)
自分の意思とは関係なく尿がもれてしまうことを尿失禁といいます。
尿失禁は、大きく分けて以下の4種類に分類できます。女性にみられる尿失禁の割合は、腹圧性尿失禁が約49%と最も多く、切迫性尿失禁が約21%程度、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両方が原因の混合性尿失禁が約29%といわれています。
腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁どちらも「骨盤底筋のゆるみ」が影響しています。
骨盤底筋は骨盤の中にある膀胱や子宮、直腸といった臓器が体からだの外に出ていかないように骨盤の底からに支える役割があります。また骨盤底筋は尿道や膣、肛門を囲んでいることから、尿や便を出す、出さないといったコントロールも行っています。
そのため、骨盤底筋がゆるむと臓器が下がりやすくなり、尿や便がもれやすくなります。
骨盤底筋がゆるむ原因は、以下の3つが挙げられます。
(1) 妊娠や出産
妊娠すると子宮が大きくなるため骨盤底筋に負担がかかります。そのため、骨盤底筋は骨盤内の臓器を守ろうと筋肉を引き伸ばして対応します。そして、出産時には骨盤底筋はさらに引き伸ばされ、傷つきやすくなります。
(2) 女性ホルモン(エストロゲン)の分泌減少
エストロゲンは粘膜の潤いを保ったり、骨や筋肉、血管の弾力性を保ったり、丈夫にしたりするなどの役割があります。更年期以降エストロゲンの分泌は減少するため、骨盤底筋の機能は徐々に低下します。
(3) 運動不足や体形の変化
運動不足は全身の筋力低下や血行不良につながります。骨盤底筋も例外ではなく、運動不足が続くと骨盤底筋は衰えます。
そして、体重が増えると骨盤底筋にかかる負担が増えます。反対に急激な体重減少は筋肉量が減少し、骨盤底筋の衰えにつながります。
1)~3)のいずれの症状も内服薬の処方など治療を受けることで改善する可能性があります。泌尿器科や産婦人科を受診し、医師に相談してください。
2. 尿トラブルの予防方法
1) 尿路感染症の予防
(1) 女性器の清潔を保つ
「いつもと違う!女性の予想外の分泌物を自分でチェック」の「日常生活とおりものの関係」を参考にしてください。
(2) 十分な水分摂取を行う
尿を出しやすくするために、1日あたり2Lの水分摂取量が一般的に推奨されています。しかし、気候や活動量、体調などによって、個々人に必要な水分摂取量は異なります。のどが渇いたと感じる前に、こまめに摂取することが大切です。
ただし、カフェインやアルコールは水分摂取量にカウントしないほうがよいでしょう。これらは利尿作用があり、体から水分を排出させてしまいます。水以外に、カフェインレスのコーヒーや紅茶、ルイボスやカモミールなどのハーブティー、100%フルーツジュース、野菜ジュース、牛乳や豆乳、麦茶を利用してはいかがでしょうか。
(3)トイレに行きたくなったら我慢しない
膀胱に長時間尿をため込まないように、我慢せずにトイレに行ってすっきりしましょう。
わたしも新人看護師だったころ、忙しくてトイレに行くタイミングを逃し続け、膀胱炎になったことがあります。おしりに抗生物質の筋肉注射を打たれ、症状は改善しましたが、あのトイレに行っても出ない、絞るような痛みは忘れられません。それからは、報告して我慢せずにトイレに行くようにしたので膀胱炎とはさよならできました。
2) 骨盤底筋体操
方法はインターネットなどで調べると出てきますので、ここでは注意点を書きます。
骨盤底筋は目で見えないため、体操が骨盤底筋に効いているのかどうかわかりづらいという感想が聞かれます。
骨盤底筋を収縮させようとしておしりや内股に力が入っていては効果が得られません。骨盤底筋は呼吸と連動しています。腹式呼吸が上手にできる方は、息を吐くと骨盤底筋が締まり、吸うとゆるみます。
骨盤底筋が動いているか確認する方法は、尾骨(おしりの割れ目の先にある猿のしっぽだったといわれる部分)を指で触ります。膣や肛門をからだの中に引き上げるように締めたときに指が尾骨から離れ、緩めたときに指に戻ってくる感覚があれば、正しく動かせているサインです。
そして、地道にこつこつ続けることが大切です。2週間程度続けると効果が出てくるといわれています。最初は1日1セットでもよいので、日常生活の中でテレビを見ながら、布団の中で、家事・仕事の間など、すき間時間に行うことから始めてみましょう。
3) その他
尿もれが心配だからと、早め早めにトイレに行ってしまいませんか。早めにトイレに行く習慣になっていると、膀胱に尿をためる機能が衰えます。
また、尿を全部出しきろうと腹圧をかけてしぼり出すように排尿し続けていると膀胱を収縮させる機能が衰えて、かえって排尿後の尿もれにつながることもあります。排尿時は、腹圧をかけずにリラックスして排尿しましょう。
まとめ
・女性の尿トラブルは、尿路感染症や頻尿、尿失禁(尿もれ)などが原因で起こります。
・骨盤底筋体操を取り入れることで、尿トラブルの軽減につながります。
・骨盤底筋は呼吸と連動しています。腹式呼吸を意識すると骨盤底筋の動きがわかりやすく、体操の効果が感じられやすくなります。
5回にわたり、自分で女性器の不調をチェックできること、症状と日々の生活の関連性や対応策、病院受診で聞かれることや検査の内容について、お伝えしてきました。不安な症状の原因がわかり、日々の生活を振り返るきっかけになったでしょうか。そして、症状が続くときは一人で抱え込まずに専門家に相談しようと気持ちを切り替えて、早めに診断や治療を受けられることにつながっていればうれしく思います。
この記事を書いた人
ヤマダ カオリ
〈プロフィール〉
親に勧められ、自分が希望する心理学への道をあきらめ、看護学校に入学し、病院に就職する。周りの同期のように看護が楽しいと感じられず、私のしたいこととは違うと思い続け、「看護師は向いていない」と悩みながら3年間 病院で勤務後、退職する。事務職に転職しようとパソコンや簿記を学ぶが、25歳では事務職への転職は難しく、生活のために看護師に復帰する。
復帰後はマンネリ化した機能別業務に、再度「看護師は向いていない」と感じる日々が続いていた頃、関連病院で病床数増床のため看護師を募集していることを知り、心機一転すれば看護の楽しさがわかるのではと思い、異動を希望し、上京する。上京した病院で、自宅で最期を迎えたいと希望する患者や家族への退院指導の難しさと充実感を知り、新人教育担当として新人看護師が日々成長していく姿に励まされ、5S活動やQCサークル活動を通じて業務改善に手ごたえを感じるなど、看護師を続けたいと思えるようになった。それからは、自分の興味の赴くままに学びを深め、特に認知症に関する知識や技術を身につけ、「その人の行動の意味することは何か、生活歴を通して気づく看護の楽しさ」を伝えたいと思うようになった。
現在は、「看護が楽しい」と感じる仲間を増やしたくて、看護学校で看護教員をしている。
〈経歴〉
看護師経験 32年(内分泌代謝・循環器内科病棟、外科混合病棟、高齢者施設で勤務)
看護教員養成研修 修了
認定看護師教育課程(認知症看護) 修了
医療安全管理者養成研修 修了
認定看護管理者制度 ファーストレベル・セカンドレベル教育課程 修了
〈講座〉
認知症ケアに関する講座 多数
未来をつくるkaigoカフェ 「つづけるカフェ」隔月開催(現在休止中)