「もし自分が意識を失い、治療について希望を伝えられなくなったらどうなるのだろう」
「家族がいない場合、延命治療をするかどうかは誰が決めるのだろう」
普段、元気に生活しているときには、なかなか考える機会のないことかもしれません。
しかし、病気や事故・認知症などによって、自分で意思を伝えることが難しくなる可能性は誰にでもあります。特に身寄りがない方や、家族がいても頼ることが難しい方にとって、「自分の希望を誰にも伝えられないこと」は大きな不安の一つではないでしょうか。 今回は、延命治療とはどのようなものなのか、身寄りがない場合には医療現場でどのように方針を考えていくのか、そして元気な今だからこそできる準備についてお伝えします。
この記事の目次
1.延命治療ってどんな治療?
「延命治療」という言葉を聞くと、人工呼吸器などの特別な治療をイメージする方もいるかもしれません。
しかし、「延命治療」は、一つの決まった治療を指すものではありません。
人生の最終段階では、その人の病気や身体の状態によって、さまざまな医療やケアが行われます。例えば、心臓が止まった場合の心肺蘇生、呼吸を助ける人工呼吸器、自分で食べることが難しくなった場合に、栄養や水分を補うための医療などがあります。
ただし、「これを行えば延命治療」というように、医療行為の種類だけで単純に分けられるものではありません。
同じ医療行為でも、本人の病状や回復の可能性、治療の目的などによって意味は異なります。そのため、人生の最終段階では、本人の希望を基本に、医療・ケアチームと十分に話し合いながら、どのような医療やケアを行うのかを考えていきます。厚生労働省のガイドラインでも、医療・ケアの開始や変更、中止については、医学的な妥当性や適切性をもとに慎重に判断することが示されています。
つまり、「延命治療を希望するか、しないか」と一括りに考えるのではなく、「どのような状態になったとき、自分はどのような医療やケアを望むのか」を考えることが大切なのです。
2.延命治療について、みんなはどう考えている?
厚生労働省の「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では、一般国民の約半数が、人生の最終段階における医療・ケアについて「考えたことがある」と回答しています。
しかし、受けたい・受けたくない医療やケアについて、家族等や医療・介護従事者と「詳しく話し合っている」人は1.5%、「一応話し合っている」人は28.4%で、「話し合ったことはない」人は68.6%でした。
つまり、自分の最期について考えたことはあっても、その思いを誰かに伝えている人はまだ多くないという現状があります。
また、「延命治療を希望する・しない」という二択だけで、その人の希望を表せるわけでもありません。
「できるだけ長く生きたい」
「苦痛はできるだけ少なくしてほしい」
「できる限り口から食べたい」
「自宅で過ごせることを大切にしたい」
何を大切にしたいかは、人によって異なります。
3.自分で意思を伝えられなくなったらどうなる?
医療は、本人が自分の意思を伝えられる場合には、本人による意思決定が基本です。
しかし、意識障害や認知症の進行、病状の悪化などによって、自分の希望を伝えることが難しくなる場合があります。
そのようなとき、本人のことをよく知る家族などがいれば、
「以前から延命治療は望まないと話していました」
「できるだけ自宅で過ごしたいと言っていました」
など、本人がこれまで話していたことや、大切にしていたことを医療者へ伝えることができます。
ここで重要なのは、家族が単純に「本人の代わりに決める」ということではありません。
「本人ならどう考えるだろうか」
という視点から、本人の意思を推定しながら、医療・ケアチームと話し合っていくことが大切です。
4.身寄りがない場合、医療現場ではどう決める?
では、自分で意思を伝えることができず、さらに本人の希望を知る家族などもいない場合はどうなるのでしょうか。
「家族がいなければ医師が決めるのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、人生の最終段階の医療・ケアでは、医師一人の判断で決めるのではなく、医師や看護師などの医療・ケアチームで慎重に検討することが基本とされています。
本人が過去に話していたことや生活歴、人生観、価値観など、本人について分かる情報をできる限り集め、「この方なら何を大切にするだろう」「本人にとって最善の医療・ケアは何だろう」と話し合いながら方針を考えていきます。
身寄りがないからといって、本人の意思が大切にされなくなるわけではありません。
だからこそ、自分で意思を伝えられるうちに、自分の考えを何らかの形で残しておくことには大きな意味があります。
5.大切なのは「する・しない」だけではない
延命治療について考えると、
「人工呼吸器をつけるか」
「心肺蘇生をするか」
「胃ろうをつくるか」
といった医療行為に目が向きがちです。
しかし、人生の最終段階について考えるときに大切なのは、治療を「する・しない」だけではありません。
「最期まで好きなものを口から食べたい」
「痛みや苦しさをできるだけ減らしてほしい」
「できるだけ自宅で過ごしたい」
「会話ができる時間を大切にしたい」
「できる限り長く生きたい」
こうした思いも、その人の医療・ケアを考えるうえで大切な情報です。
治療の選択を考える前に、「自分はどんなことを大切にして生きたいのだろう」と考えてみることが、自分らしい医療を考える第一歩になるのではないでしょうか。
6.自分の思いを「伝える・残す」という備え
第3回でACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)についてお伝えしました。ACPは、将来、自分で意思を伝えられなくなった場合に備えて、自分が大切にしていることや希望する医療・ケアについて、信頼できる人や医療・ケア従事者と繰り返し話し合っていく取り組みです。
ただし、「人生会議をしなければ」と難しく考える必要はありません。
まずは、自分の考えをノートなどに書いてみる。信頼できる友人や、かかりつけ医、訪問看護師、日頃関わっている支援者などに話してみる。それも大切な一歩です。
事前指示書として自分が希望する医療について書き残す方法もあります。
しかし、一度決めたことを、ずっと守らなければならないわけではありません。
年齢を重ねたり、病気になったり、大切な人との関係が変わったりすることで、自分の考えが変化することもあります。
誰かに話すこと、書き残すこと、必要な人と共有すること。そして、ときどき内容の見直しをすること。
身寄りがない方にとっては、こうして自分の思いを伝えて残しておくことが、将来、自分で意思を伝えられなくなったときに、自分らしい医療・ケアを考えてもらうための大切な手がかりになります。
7.まとめ
人生の最終段階における医療・ケアは、「延命治療をするか、しないか」という一つの選択だけで決まるものではありません。
どのような治療を受けたいのか。
どこで過ごしたいのか。何を大切にしたいのか。そこには、一人ひとり違う答えがあります。
そして、今すぐその答えをすべて決めておく必要もありません。
まずは、「自分はこれから、どんなふうに生きていきたいだろう」と考えてみる。自分の思いを「伝える・残す」ことは、未来の自分を支える一つの備えになります。
自分らしく生きることを考える。その延長線上に、自分が望む医療や人生の最終段階について考えるヒントがあるのではないでしょうか。
〈参考資料〉
・厚生労働省『令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査』
・厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』平成30年3月改訂
・厚生労働省「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。
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