目次

生命保険による寄付

遺贈寄付の方法には

・遺言による寄付
・契約による寄付
・相続財産の寄付

があると、これまでお伝えしてきました。

さらに「契約による寄付」には

・死因贈与契約による寄付
・生命保険による寄付
・信託による寄付

があり、「信託による寄付」のうち「公益信託」「特定寄附信託」「遺言代用信託」「生命保険信託」についてご説明しました。

今回は「生命保険による寄付」をご紹介します。

生命保険による寄付
この記事の目次

生命保険信託との関係

前回ご説明した「生命保険信託による寄付」は、生命保険と信託を組み合わせた仕組みです。

死亡保険金を信託財産に組み入れ、そこから資金を交付する(寄付する)流れです。

しかし、死亡保険金を直接寄付できれば、わざわざ信託を組み合わせる必要はありません。

それができない理由は、多くの保険では、受取人に指定できる人の範囲が「配偶者または2親等内の血族」と、保険約款で定められているからです。

つまり、ほとんどの場合、非営利団体を受取人に指定できないのです。

生命保険による寄付の課題

なぜ、このような範囲に限定されているのでしょうか。いくつか理由はありそうですが、大きく分けて2つあると思います。

1.保険の仕組み

保険は「相互扶助」、すなわち「助け合いの精神」でできていると言われています。

「一人は万人のために、万人は一人のために」という表現もあります。

多くの人が少しずつお金を出し合い、万一の時にはその資金からまとまったお金を出して経済的に助ける、という仕組みです。

保険の加入者が亡くなった時に困るのは、生計を同じにしている家族でしょうから、受取人の範囲も近しい親族に定めたのだと思います。
生計を共にしていない第三者や非営利団体は、保険加入者が死亡しても困ることはないので、対象外なのでしょう。

2.手続き上の問題

もう一つは、実務上の要請が考えられます。死亡保険金は受取人が請求してはじめて支払われます。

被保険者(保険をかけられている人)の死亡を保険会社が知って、受取人の探して支払ってもらえる仕組みではありません。請求しなければ、ずっとそのままです。

銀行のような休眠預金の制度もありません。

つまり、受取人は被保険者の死亡の事実を確実に把握できる人でなければ、保険が支払われない可能性が高くなってしまいます。

保険会社としても無責任な契約はできないので、受取人の範囲を近しい親族にしているのだと思います。
また、死亡を証明する書類(死亡診断書や除籍謄本など)を取得できるのも、原則として親族に限られることも、その理由だと考えられます。

生命保険による寄付

近年、生命保険で発生していること

以上のような課題と理由がある一方で、近年特に増えているご相談事例があります。

(例)子どものいない夫婦の保険

子どものいない夫婦は、お互いに保険をかけ合っているケースがあります。

夫が契約者兼被保険者、妻が受取人となる保険。

その反対に、妻が契約者兼被保険者、夫が受取人となる保険です。

このとき、例えば夫が死亡すると、妻に死亡保険金が支払われます。これにより、妻は経済的に助かります。

ここまでは良いのですが、問題は妻が契約している保険です。
受取人の夫は死亡しましたので、受取人不在の状態です。

ここで多い相談に「受取人を非営利団体に変更したい」というご希望があります。

自分の兄弟姉妹や甥姪に変更しても良いけれども、社会に役立てる方を優先したい、というお考えです。

ところが、保険会社は前述のように、受取人の範囲に非営利団体を入れていませんので、変更の手続きが取れないことになります。

この場合、取り得る手段は、

①生命保険信託にする
②受取人に親族を指定する
③保険を解約する

がありそうです。

①は保険会社が信託銀行等と生命保険信託の仕組みを持っている場合に限られる、②は寄付を諦めることになる、③は解約返戻金が保険料(掛け金)合計より少ない場合がある、の問題があります。

また、一部の保険会社では、非営利団体を受取人として認める取り扱いをしていますが、その場合でも、死亡を確実に把握でき、死亡を証明する書類を取得できる人を別途確保する等の条件を付しているようです。

生命保険による寄付

受取人を変更しないとどうなるか

話は遺贈寄付とは離れますが、受取人変更の手続きをしないと、どうなるのでしょうか。

妻が亡くなったときの死亡保険金を受け取る権利のある人は、保険会社や保険約款によって異なります。

多くの場合、受取人が死亡した場合の死亡保険金は、受取人の法定相続人のものになります。

ここで注意すべきは、「受取人の相続人」であって「契約者(被保険者)の相続人」でない点です。

通常の相続では、相続財産は被相続人の法定相続人のものです。

妻の遺産は妻の相続人(子どもも親もいなければ、妻の兄弟姉妹)のものになりますが、保険は違います。
受取人が夫の場合で、夫が死亡していると、夫の法定相続人(子どもも親もいなければ、夫の兄弟姉妹)のものになります。

複数いる場合は人数割であるところも、通常の相続とは異なります(法定相続分や代襲相続の考え方はない)。これは、保険金の性質が相続財産ではなく、受取人固有の財産であることに由来しています。

保険金は相続財産ではないので、民法の規定が適用されず、保険法が適用されます。

さらに難解なのは、かんぽ生命の場合は、上記とは異なる規定があることです。

原則は上記のとおり、保険法第46条の定めによって「受取人の相続人」なのですが、これとは異なる規定と約款で定めることができます。

かんぽ生命では、受取人が先に死亡している場合、受取人の「遺族」が受け取ると定めています。
この「遺族」には順番があり、

①被保険者の配偶者
②被保険者の子
③被保険者の父母
④被保険者の孫
⑤被保険者の祖父母
⑥被保険者の兄弟姉妹
⑦被保険者の扶助によって生計を維持していた者
⑧被保険者の生計を維持していた者

となっています。

また、代襲相続の考え方もありませんので、先順位の遺贈の一部がいない場合に、その後順位の遺族が代襲することはありません。

以上の規定は、旧簡易生命保険法の流れをくんでいるようです。

身近に相続が発生した際には、相続手続きが保険金の請求だけでなく、保険金の受取人変更の手続きも忘れずに行いましょう。


この記事を書いた人

齋藤 弘道(さいとう ひろみち) 遺贈寄附推進機構 代表取締役 全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道(さいとう ひろみち)

<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事

信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

よろしければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
この記事の目次